「過去最高益なのに株価が下がった」。決算のニュースを見て、業績が良ければ株価も上がるはずでは、と感じたことはないでしょうか。

利益の増加は、企業を見るうえで大切な情報です。ただ、株価には発表された利益だけでなく、発表前の期待や今後の見通しも関わります。利益が増えたか、どんな期待と比べられたか、その利益に対してどんな価格が付いているか。この三つを分けると、決算と株価の関係を考えやすくなります。

株式の基本を扱った「株式・投資信託・NISA・証券会社は何が違う? 商品・制度・利用先を整理」の続きとして、ここでは企業の数字をもう一段詳しく見ていきます。登場する会社と数値はすべて架空で、株価を予測するものではありません。

1. 前年より増えた利益が、期待を下回ることもある

A社の年間純利益が、前期の10億円から今期は12億円になったとします。前期比では20%の増益です。

一方、決算前には14億円程度になると期待されていた、と仮定しましょう。12億円という結果は、前期を上回りながら、期待には届いていません。投資家が今後の成長についても見直せば、増益発表後に株価が下がることがあります。

図1 同じ12億円でも、比較先で見え方が変わる

架空例

同じ12億円でも、比較先で見え方が変わる(単位:純利益(億円))
比較する値純利益(億円)
前期実績10
今期実績12
決算前の仮定の期待14

前期比+20%

期待を2億円下回る

架空の例。期待14億円は説明用の仮定で、実在の会社予想・市場予想ではありません

ただし、「市場の期待」は直接見える一つの数字ではありません。会社自身の業績予想と、証券アナリストなどの予想は別です。アナリスト予想の平均も、すべての投資家の考えを表すわけではありません。予想を読むときは、誰が、いつ、どの期間について出した数字かを確かめます。

会社予想を上回ったというだけで、株価上昇が決まることもありません。もっと大きな上振れが見込まれていたり、来期の見通しが弱かったりする場合があります。東京証券取引所も、将来予測情報が投資判断に有用である一方、業績予想は達成を約束するものではないと説明しています。

この架空例から分かるのは、比較する相手で同じ決算の見え方が変わる、ということです。実際の値下がりを、期待との差だけで説明できるとは限りません。

2. 会社全体の利益と、1株当たりの利益を確かめる

株主が持つのは会社の株式の一部なので、会社全体の利益とともに、1株当たりの利益を見ることも大切です。これをEPSといいます。

EPSは、普通株主に帰属する当期純利益を、自己株式を除いた普通株式の期中平均株式数で割って求めます。期末の株式数をそのまま使うとは限らない点に注意しましょう。企業会計基準委員会の基準で算定方法が定められています。

A社について、普通株主に帰属する利益が先ほどの10億円、12億円と一致し、計算に使う株式数が両期とも1,000万株だったとします。EPSは100円から120円へ増えます。

ここで条件を一つ変え、増資によって今期の期中平均株式数が1,500万株になったとすると、今期のEPSは80円です。会社全体では増益でも、1株分では100円から80円へ減る計算になります。

こうした1株当たりの利益の薄まりは、希薄化と呼ばれます。ただ、増資で得た資金が事業の成長につながる可能性もあるため、株式数の増加だけで良し悪しを決めることはできません。調達したお金を何に使い、いつ、どの程度の成果を見込むのかまで読みます。

また、株式分割は、各株主の保有株数も同じ割合で増えるため、この増資例と同じ扱いにはできません。比較には、分割を反映して調整されたEPSを使います。

3. 増えた利益が、これからも続くかを見る

利益には、通常の事業から生まれた部分も、保有する不動産や株式の売却などで一時的に増えた部分もあります。純利益の増加を見つけたら、その理由を決算短信や説明資料で確かめましょう。

たとえば、商品の販売が伸びて利益が増えた会社と、本業の利益が減る一方で資産売却益が加わった会社では、翌期に同じ利益が続くかを考える材料が異なります。営業利益、純利益、部門別の売上や利益を行き来すると、何が増益を支えたかが見えやすくなります。

一時的な利益があること自体は、問題とは限りません。不要な資産の売却で経営を改善する場合もあります。大切なのは、一度の売却益が毎年続く前提になっていないかを確かめることです。

反対に、研究開発や採用などへの支出が増えて、足元の利益を押し下げる場合もあります。その支出が将来の成長につながるかは、目的と進み具合を確認する必要があります。利益の増減だけでなく、会社が説明している理由と、その理由を確かめられる数字を一緒に読みます。

4. 利益が伸びても、価格の評価が変わる

利益と株価の関係を整理する指標に、PERがあります。株価をEPSで割った値で、株価が1株当たり利益の何倍に当たるかを表します。JPXの用語解説で基本の定義を確認できます。

ここではA社の株式数が1,000万株のまま、という条件に戻します。前期のEPS100円に対し株価が2,000円なら、PERは20倍です。その後、今期のEPSが120円に増えても、株価が1,800円ならPERは15倍になります。

100円 × 20倍 = 2,000円
120円 × 15倍 = 1,800円

図2 EPSの増加と株価下落が両立する例

架空例

前期実績

EPS 100円×PER 20倍=株価 2,000円

今期実績

EPS 120円×PER 15倍=株価 1,800円

EPS+20% / PER-25% / 株価-10%

株式数が両期とも1,000万株の場合の架空例。株価の予測式や適正PERの提示ではありません

EPSは20%増え、株価は10%下がっています。この計算は、利益の増加と株価下落が同時に起きても矛盾しないことを示すものです。PER15倍が適切だと示したり、PERを決めれば将来の株価が分かったりするわけではありません。

成長の見通しや利益の安定性に対する評価が変われば、同じ利益に付く価格も変わり得ます。高い成長がすでに期待されていた会社は、成長しても、その伸びが期待に届かないことがあります。「良い会社だと思う」という評価に加えて、購入価格にはどれくらいの成長が期待されているかも考えたいところです。

PERを比較するときは、実績EPSを使っているのか、予想EPSを使っているのかをそろえます。予想EPSは変わり得ますし、一時的な利益でEPSが膨らむとPERは低く見えます。景気に業績が左右される会社では、好況時の利益が続くとは限りません。赤字や利益がごく小さい場合も、通常の倍率比較には向きません。

業種や事業の条件を無視して「低いほど有利」とは判断できません。PER20倍も、投資した金額が20年で戻る保証を意味するものではありません。

5. 株価の動きから、原因を決めつけない

株価には金利、為替、市場全体の動き、売買の需給も影響します。JPXの株価の解説でも、企業自身の要因と市場全体の要因が挙げられています。

決算と同じ日に株価が下がっても、すべてがその決算への反応とは限りません。同業他社や市場全体も下がっていたか、別の重要な発表がなかったかも確認します。それでも、短期の値動きの理由を一つに特定できないことはあります。

次に決算資料を開いたら、まず「前年から増えた理由」「直前の会社予想との差」「今後の見通し」の三つを短く書いてみてください。そのうえでEPSの変化と価格を見れば、増益という見出しだけでは分からなかった確認点が見つかります。

利益が実際のお金の動きとどうつながるかは、続編「決算書で利益と現金のズレを読む」で扱います。

※一般的な金融教育のための説明です。特定の銘柄の購入・売却や保有を勧めるものではありません。

参照資料