物件資料に「利回り6%」と書かれていると、その割合のお金を毎年受け取れるように見えるかもしれません。ただし、家賃収入から手元に残るお金までには、空室、管理や修繕、借入返済など、いくつもの段階があります。

「預金・株式・投資信託・不動産を、暮らしの条件から比べよう」では、保有中の費用や管理の違いを整理しました。ここでは賃貸物件の収支資料を開き、どの数字が何を差し引いたものかを追ってみます。金額や利回りはすべて架空で、実際の相場や購入の推奨を示しません。

図1 満室想定家賃から返済後の現金まで

取得済み物件を1年間運営する架空例

物件価格
3,000万円
取得時諸費用
200万円
取得総額
3,200万円
  1. 満室想定家賃180万円
  2. 空室等による家賃減少 −18万円(支払いではない)家賃入金162万円
  3. 運営支出 −35万円127万円
  4. 通常修繕 −12万円返済前の運営収支115万円
  5. 利息 −30万円85万円
  6. 元本返済 −60万円所得課税前の現金増加25万円

ここから所得税・住民税等の支払い、大きな設備更新などを確認

架空例。単位万円。運営支出35に通常修繕12を含めない。固定資産税は運営支出に含む。所得課税と大きな設備更新は未反映。

空室等18万円は想定家賃からの減少であり、外部への支払いではありません。税額は未設定で、0円を意味しません。

1. 表面利回りの分子と分母を確認する

表面利回りは、一般に年間の家賃収入を物件価格で割った割合です。日本FP協会の解説でも、満室を想定した収入と現況の収入の違い、取得費用や運営管理費が含まれない点が説明されています。

物件価格3,000万円、満室想定の年間家賃180万円なら、180万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 6%です。この段階では、180万円をそのまま使えるとは分かりません。まず、家賃が現在の契約額なのか、空室も含めた想定額なのかを確認します。

分母も確かめましょう。取得時の諸費用が別に200万円かかるなら、必要になる取得総額は3,200万円です。同じ180万円でも、取得総額で割れば約5.6%になります。比較する資料で分子・分母が違えば、表示された利回りだけを並べても条件がそろいません。

全体図に戻る

2. 空室と日々の支払いを家賃から引く

この物件をすでに取得し、ある1年間を運営する例を考えます。空室などによる家賃の減少を18万円とすると、その年の家賃収入は162万円です。ここでは家賃はその年に全額入金され、未収金や前受金はないとします。

さらに、管理料、保険料、固定資産税などの運営支出35万円と、通常の修繕に使う12万円を差し引きます。

180万円 - 18万円 - 35万円 - 12万円 = 115万円

この115万円は、本例で借入返済前に残る運営上の現金です。運営支出35万円に修繕12万円は含めず、二重に引かないようにしています。所得税など、所得に対する税金はまだ差し引いていません。

実資料では、管理料にどの業務が含まれるか、入居者募集や退去時の費用を別に見込んでいるかも確認します。「実質利回り」や「NOI利回り」と書かれていても、費用の範囲や分母は注記まで読む必要があります。本例の115万円を取得総額3,200万円で割ると約3.6%ですが、これも借入返済や所得課税を反映する前の数字です。

全体図に戻る

全体図に戻る

3. 借入返済は利息と元本に分ける

その年の借入返済額が90万円で、内訳が利息30万円、元本60万円だったとします。運営後の115万円から両方を支払うと、残る現金は25万円です。

115万円 - 利息30万円 - 元本60万円 = 25万円

利息はお金を借りることに伴う費用です。元本の返済は借入残高を減らす支払いで、利益を計算する際の費用とは区別します。ただし、現金はいずれの支払いでも減ります。

返済予定表では総額に加え、この内訳を見ます。変動金利か固定金利か、金利の適用期間、元本返済の据置き、最終回に残る返済額などによって、将来の支払いは変わります。家賃収入が減っても、契約上の返済が同じ割合で減るとは限りません。

借入残高の減少は財産全体を考える材料にもなりますが、その60万円を今の生活費として使うことはできません。また、借入が減っただけで、物件価格の下落などを含む最終的な損益が分かるわけでもありません。

全体図に戻る

4. 会計上の利益と現金収支を分ける

次に、先ほどの例で年間の減価償却費を45万円とします。減価償却は、建物などの取得原価を期間に配分する処理です。当年の償却額と同額の現金が、その年に新たに出ていくとは限りません。国税庁の説明でも、取得に要した金額を各年へ配分する考え方を確認できます。

運営支出・通常修繕・利息は当年の費用と支払額が一致すると置き、ほかの調整がない単純な損益計算をすると、所得課税前の利益は次のとおりです。

162万円 - 35万円 - 12万円 - 利息30万円 - 減価償却45万円 = 40万円

利益は40万円、返済後の現金増加は25万円。違いは、利益の計算では減価償却を引き、現金収支では元本返済を引いていることです。40万円に償却45万円を戻し、元本返済60万円を引いても、25万円になります。

図2 利益40万円と現金25万円が違う理由

共通の開始点:家賃162 − 運営35 − 通常修繕12 − 利息30 = 85万円

利益の計算

共通の開始点
85万円
減価償却
−45万円
所得課税前利益
40万円

現金収支の計算

共通の開始点
85万円
元本返済
−60万円
所得課税前現金増加
25万円

橋渡し:40 + 45 − 60 = 25万円

減価償却の足し戻しは収入ではない。元本返済は借入残高の減少。

架空例。家賃・運営費・通常修繕・利息の計上額と入出金額は一致。未収未払、設備投資、新規借入、売却などの変動なし。税額計算を示す図ではありません。

これは本例の条件をそろえた比較です。実際には未収家賃、未払費用、設備投資などでも差が生じます。減価償却を戻すことは、新しい収入が入るという意味ではありません。会計上の利益と、税金を計算する所得も、そのまま同じとは限りません。

全体図に戻る

5. 税金と将来の修繕を含めて手元を見る

25万円には所得税・住民税などの支払いをまだ反映していません。不動産所得は収入と必要経費から計算しますが、適用される税額や支払時期は、他の所得や控除、個別の事情にもよります。25万円に一律の税率を掛けて「税引後の手取り」とすることはできません。国税庁の不動産所得の説明などで確認し、必要に応じて税理士へ相談します。

現金収支の表では、見積もった税金を支払月に置きます。運営支出に含めた固定資産税を、最後に再び引かないことにも注意しましょう。

大きな修繕や設備更新も、毎年均等に発生するとは限りません。同じ年に追加で50万円を支払えば、ほかの条件が同じ場合、25万円は25万円の持ち出しへ変わります。将来の修繕用に自分の別口座へ移すお金は、外部への支払いとは区別しつつ、自由に使えるお金からは分けて管理します。

国土交通省の計画修繕ガイドは、点検や修繕の時期・費用をあらかじめ把握する考え方を示しています。なお、工事代が税務上の修繕費になるか、資産として扱う支出になるかは、名称だけでは決まりません。国税庁の修繕費の解説も確認が必要です。

全体図に戻る

6. REITでは何を読むか

REITの投資口を持つ場合、物件の家賃がそのまま自分の口座に入るわけではありません。物件の運営や投資法人の財務を経て、分配金につながります。JPXのREIT解説のとおり、市場価格も変動し、分配金の減少や損失の可能性があります。

実物物件の表面利回りと、REITの分配金利回りは、分子も分母も異なります。REITでは保有物件の用途・地域、稼働状況に加え、借入金利や返済期限も読む入口になります。自分が現物購入していても、投資法人の借入の影響は受けます。

次に物件の収支資料を開いたら、家賃の前提、支出の内訳、元利返済、税金、修繕予定を同じ期間で並べてみてください。最初の1年が黒字でも、支払いが集中する月や修繕のある年、将来の売却まで含む損益は別に確認します。利回りを一つ選ぶ前に、まだ差し引いていないものを見つけるところから始めましょう。

※一般的な金融教育のための説明です。特定の物件やREIT、借入、売買を勧めるものではありません。税務上の扱いは個別条件と最新の制度で確認してください。

参照資料

一次資料確認日:2026年10月18日